今週の山頭火句

今週の山頭火句 旅のかきおき書きかへておく  山頭火

2013年5月7日火曜日

「第8回俳句一草庵」水内慶太特別賞の紹介です。

水内慶太先生が、「第8回俳句一草庵」の選句をしてくれました。
その選評が届きましたので、皆さまに公表します。一緒に勉強してみましょう。

水内慶太特別賞(「月の匣」主宰)


 一般の部・特選

空せ貝遅日の砂のつまりをり     松山市  丹下恵美子

(評)「空せ貝」は貝の殻、すなわち空っぽの貝殻。それも二枚貝ではなく、巻貝などを「空せ貝」というようだ。しかし「空せ貝」と「砂」との取り合せは平凡だが、その平凡を非凡に変えたのは、季語「遅日」だろう。「遅日の砂」に予期しない発見があった。「遅日の砂」は中々いえない。

一般の部・入選

天蓋の蝉声明に右顧左眄        大垣市 杉本利明 

(評)「蝉」といえども惑いがあるのか、こともあろうに本堂の「天蓋」に飛んできてしまった。折しも僧の唱える「声明」に「右顧左眄」して狼狽える「蟬」が愉快だ。

空蝉の爪の先まで打球音               東京都武蔵野市 本田いづみ

 (評)この句も「蟬」の句だが、こちらは「空蝉」。「空蝉」は蝉の抜け殻だが、「爪の先」で幹や枝や草にしがみ付き、命を羽ばたかせた任務のままの状況が今も残っている。その「爪の先まで」高校球児の練習の「打球音」がとどく。辺りには蝉の鳴き声が夏の暑さを増幅する。取り合わせの「空蝉」と「打球音」には、ことを成し遂げたものと、これから途上にあるものの爽やかさが滲み出る。

高校の部・特選

 空缶の踞りをる春の川        松山中央高2年 丸本勝典

(評)「直観」intuition(英)の語源はラテン語のintuere(凝視する)にあるという。この句の「踞り」はまさに直観。「空缶の踞りをる」の中七はいえそうでいえない。「春の川」の中の「空缶」と言う景も非凡だ。

高校の部・入選

流れゆく空の碧さや風光る        飛騨神岡高2年 細田優花

(評)「空」が〈流れゆく〉と捉えた感性は素晴らしい。「風光る」こと限りなしだろう。春の希望にあふれた明るい句だ。

春疾風どんどん前へ足が向く     飛騨神岡高1年 石田琴美

(評)「春疾風」は一つの象徴としての言葉として斡旋されたのかも知れない。どんな強い力にも挫けることなく、一歩一歩「前へ足」を「向」ける姿勢が「春」らしい。高校生の実社会へ向かう強い意志が見える句だ。

中学生の部

朝早くそよそよなびく春の海     川越市福原中学2年 金子勇気

(評)この句「そよそよなびく春の海」の、新鮮な感性が良い。今までに「海」を「そよそよなびく」と捉えた作家はいただろうか。「春」だからこそ、風のように「そよそよなびく」のだろう。


慶太先生は、俳誌「月の匣」を主宰されています。
ある人が、昭和の俳諧師・上田五千石の一番弟子だったのよ、と言っていたのを思い出しました。
俳句を勉強しなさいと言われていわれているのでしょうか。
毎月「月の匣」を送ってくれます、俳句は沢山載っていて頭に残らないのですが、
巻頭の慶太先生のエレガンスな文章を読むのが、楽しみでたまりません。
それは、上田五千石先生の俳句信条「眼前直覚・いま・ここ・われ」のお話です。
5月号には、五千石の季語(季題)について
「<柿くえば鐘が鳴るなり法隆寺 子規>という有名な句がある。こころみにこの<柿>を取り去って。<パン>なり<団子>なりを入れてみる。たちまち一句は精彩を失い、ひからびてしまう。<柿>という季題を失うとき、句中にみちみちていた秋の空気が消え去って、無味乾燥の世界となり、生気をなくしてしまうのだ。…」
これはとりも直さず、≪句中に漲らせる空気≫こそが季語であり詩的感受性(詩的空気感)だということだろう。
4月号には、こんなお話が…。
「いま・ここ・われ」は詩の発生装置として私たちは、俳句を勉強している。俳句には「切れ」は必要条件、…俳句は二句一章以外にあり得ないと思う。
この(俳句)装置は二つの異なったものとの取り合わせで、出会いを演出するのは作者で、斡旋は「われ」であり「いま」と「ここ」の一期一会がポエジーを生みだす。このシステム(俳句)は、世界最短詩の最短が創りだした先達たちの智恵だろう。それが「切れ」だ。
慶太先生の言葉に刺激を受けたので、紹介が長くなってしまいました。
最後はこのように締め括っていました。フランスの詩人ポール・ヴァレリーは
散文を「歩行」といい、詩を「舞踏」であると喩える。俳句という詩にするには、「われ」という感性を潜らせた言葉が必要だと。
 私は、「散文」を舞台にあげて、「舞踏」とするためには「切れ」の力が必要なのだと思ったりしました。
おーいお茶の新俳句の募集のように、季語はあってもなくても、リズムにのせて詠んでくれればいいという俳句というリングの中に拘らない俳句を募集しましたが、
慶太先生は、いい俳句を選んでくれました。

 上田五千石先生の色紙がありましたので、紹介しておきます。

山開きたる雲中にこころざす 五千石