今週の山頭火句

今週の山頭火句 旅のかきおき書きかへておく  山頭火

2012年3月21日水曜日

一草庵「今月の山頭火句」(3月)

ふるさとは遠くして木の芽

 其中庵時代の句、古里も妻子も捨てた山頭火には、古里は心の中にありつゝも
帰るには遠い存在であっただろう。
「雨ふるふるさとははだしであるく」の句も読む者にも沁みてくる。(ちとせ)

この句は、今から80年前の3月21日に作った山頭火の句。


 日記によると、昭和7年3月21日
 彼岸の中日。晴れて、風が吹いて、この孤独の旅人をさびしがらせた、行程八里、
早岐(※長崎県佐世保)の太田という木賃宿に泊まる。(30・中)
   ふるさとは遠くして木の芽  とある。

 芽吹く木々を見ても、ふるさとは遠い。
  ふるさとに帰りたいけれど、帰れないのである。
 3月14日から20日まで、嬉野温泉、筑前屋に滞在している。

日記に、こんなことを綴っている。
嬉野はうれしいところです、湯どころ茶どころ、孤独な旅人が草鞋をぬぐによいところです。
私も出来ることなら、こんなところに落ちつきたいと思います、云々。

こゝに落ちつくつもりで、緑(※木村緑平)、(※田代俊和尚)、(※石原元寛)の三君へ手紙をだす、緑平老の返事は私を失望せしめたが、快くその意見に従ふ、俊和尚の返事は私を満足せしめて、そして反省と精進とを投げつけてくれた。
 とにもかくにも歩こう、歩かなければならない、ここですつかり洗濯した、法衣も身体も、或いは心までも。

 山頭火後援会なるものが出来て、旅に疲れた山頭火のために小さな庵をたててやろうという
動きもあり、嬉野結庵を申し出たのであったが、後援会の資金はそれほど集まっていなかった。
結庵は早いという返事であったのだろう、またひょうひょうとして、歩きはじめる山頭火であった。
 
嬉野温泉でのこと、井手酒造の「虎之児」を飲んで、こんな句を詠んでいる。
     湯壺から桜ふくらんだ
     ゆつくり湯に浸り沈丁花

ふるさとは遠くして木の芽」の句碑が
昭和57年山頭火生誕百年を記念して、防府天満宮に建立されている。



 昭和6年12月、第二の故郷・熊本にも落ちつくことのできなかった
うしろ姿のしぐれていく山頭火は、旅に出て、昭和7年春、嬉野温泉へ滞在。
嬉野にも落ちつくことが出来ず、関門海峡を渡って川棚へ。
川棚結庵を腹にきめ、設計図まで自分でこしらえるのだが、ままならない。
行きつく処は、盟友・国森樹明の世話で小郡へ。
武波憲治の離れ座敷を借りて、「其中庵」庵主となる。

長い漂泊の旅に疲れて、ふるさとを恋うる日が多く、ふるさとの句は多い。
俳人山頭火は、「ふるさと」を象徴して表現しているので、
読み手は、人それぞれいろいろなふるさとを心に描く。

    ふるさと遠い雨の音がする            昭和7年4月3日 平戸
  ふるさとはみかんのはなのにほふとき    昭和7年5月24日 川棚
    ほうたるこいこいふるさとにきた        昭和7年6月1日 川棚
    雨ふるふるさとははだしであるく             昭和7年9月4日   防府
   ふるさとのこゝにも家が建ち                  昭和7年8月2日  防府

 次のような、ふるさとの句もある。

  年とれば故郷こひしつくつくぼうし               昭和5年
  故郷の人と話したのも夢か                    昭和5年
  ふる郷の言葉となつた街にきた                昭和5年
  あの汽車もふる郷の方へ音たかく              昭和5年
    冬空のふるさとへ近づいてひきかえす           昭和5年
   おもいでは汐みちてくるふるさとのわたし場     昭和8年
   ふるさとの水をのみ水をあび                        昭和9年
   彼岸花さくふるさとはお墓のあるばかり         昭和9年
   ふるさとはあの山なみの雪のかがやく             昭和11年
    ふつとふるさとのことが山椒の芽                    昭和13年
    ふるさとはちしやもみがうまいふるさとにゐる     昭和13年

 山頭火が慕った、ほかいびと~井月のふるさとを思う句があった。
<井上井月  文政5年(1822年)?~明治20年2月16日(1887年3月10日)>
 山頭火もまた、同じ気持でないだろうか。

  寝て起きてまた飲む酒や花心  井月

(田中泯の踊るような”ほかいびと~井月”観てみたい、映画「たそがれ清兵衛」を思い出す。)
             http://www.youtube.com/watch?v=3AE_usuOuC0

それでは、山頭火句の英訳を紹介しておきます。

 Oh! my old  home
           in   the   distance;
                Here, new   tree   buds.  西村秋羅

  <<追伸・一草庵の風景の紹介>>

枝に花が梅のしづけさ 山頭火
 <一草庵の近郊に、早咲きの桜が咲きはじめました。>
浄土宗・不退寺の椿寒桜が満開です。

 
十六日桜(吉平屋敷跡)が、やっと咲きました。
  松山、吉藤の三島神社の薄紅寒桜、隠れた桜の穴場です。
  今、3月20日松山で一番綺麗な桜のようです。書家・米山の石文がさりげなく迎えてくれます。
  神社拝殿には、左に日本たちばな、右に桜が配置。
  たちばなは、京都御所からの接ぎ木です。
右、上世神皇道 左、萬機先神事
吉藤・三島神社の薄紅寒桜