<<第36回山頭火俳句ポスト賞>>
山頭火俳句ポスト大賞
雨の匂いに耳を澄ます 松山市 福岡美香
【評】感覚的で繊細な句である。雨の匂いは鼻で嗅ぎ、雨の音は耳で聞く。
ところが、この句では雨の匂いを耳で聞くのだ。その嗅覚と聴覚との融合が面白い。
人間の五感ももともとは一つの感覚だったのではと思わされる。
山頭火や放哉とはちょっと違った自由律の佳句である。
【評】漢字ばかりで決めた句である。花野は秋の季語。宮沢賢治の銀河鉄道 か松本零士の銀河鉄道かどちらも宇宙へ向かって進む。最終便であるから 夜の景色だろう。なんと、壮大なロマン溢れるドラマ性のある一句となった。(本郷)
【評】山頭火の「分け入つても分け入つても青い山」を連想するが、山頭火の 句が青い山の混沌の中に取り込まれた不安のようにも読めるのに対して、 この句は自ら進んで山の懐に入るという意志と主体性が際立っていて、作者 のゆとりと強さが感じられる。
【入選】掛け違うボタン直して心太 松山市 亀井たかし
【評】もちろん、「ボタンを掛け違える」という慣用句が意識されているのだろ うが、実際に衣服の掛け違えたボタンを直したと読んで、掛け違えたボタンを直 すのは心太を押し出すようなものなのだと余分な意味を排除して読んだ方が面白いかも。
【評】男性、女性のどちらが「嘘多き」なのか不明だが、謝罪会見などからある
程度は想像できる。口は開くが、眼が無く、二分してもそれぞれが再生して
二匹になる「蚯蚓」の斡旋が一句を諧謔味溢れるものにしている。
男性優位という世の中の流れはなかなか終わりそうにない。
【入選】一緒に休んだ木陰が大きくなっていたよ 西予市 西園寺明治 【評】誰と一緒に休んだ木陰だろうか。作者の成長と共に木も木陰も大きくなる
わけだが、「一緒に休んだ」の切り口が多くを想像させる。また、「大きくなっ
ていたよ」の口語調の自由律もやさしく山頭火さんの俳句大会にふさわしい。
【特選】ポンと抜く初夏いっせいに発砲す 松山市 今岡美喜子
【評】おそらくラムネの栓をポンと抜いたのであろう。初夏がいっせいに発砲する
とは、なんと、おもしろい表現であろうか。ラムネの泡が、あふれるように発泡す
ることを初夏と重ねたところが巧みである。今、この光景をあまり見ることがないが、
やはり夏が来るとポンと栓を抜く動作がよく似合うものである。